「99パー離婚」ハッシュタグへの批判と応答

本記事の経緯:何が起きたのか

2022年12月26日発売の「99%離婚 モラハラ夫は変わるのか」という書籍の告知ツイートを以下の画像のように行いました。

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このツイートに対して「本の販売のために被害者を養分にしないでほしい」「加害者側が被害者の傷を突くことは被害者を動揺させることだと理解してほしい」「このハッシュタグを使うのをやめてほしい」などのご意見をいただきました。

それに対し2022年11月19日までに検討しお返事する旨をお伝えし、直接の返事は不要であるとお返事をいただきました。

そのため、この記事自体を直接ご意見いただいた方にはお送りしませんが、非常に重要な指摘であったため、急ぎ検討し、本記事にまとめました。

検討の結果の謝罪とアクションを以下に記します。

謝罪

今回問題となったツイートは、未だ深い傷つきを抱えている多くの被害者の方々への配慮に欠けたものであり、モラハラ・DV加害当事者団体としてこの問題に取り組む上で果たすべき責任を果たしておりませんでした。本件で傷ついたたくさんの方々に心よりお詫び申し上げます。

本件に異議を表明してくださった方々には大変な葛藤があったかと思います。モラハラDVの問題に取り組んでいる組織の活動そのものを否定することではなくても、ハッシュタグを批判することが、他の人からそのように受け取られるリスクを感じていらっしゃったはずです。そのような苦しみを、分断のリスクを、加害当事者団体の代表が生じさせてしまったことの問題は重篤であり、深くお詫び申し上げます。

また、今回の批判をいただいたことで「加害者変容支援の活動」の構造的な難しさも改めて認識いたしました。そのことについても併せてこの記事で述べ、GADHAの今後の活動のスタンスを提示し、更なる議論や対話へと展開し、よりよい活動を検討し、学び続けることを約束いたします。

アクション

・ハッシュタグの目的を「99%離婚 モラハラ夫は変わるのか」についての幅広いコメントや感想のためのハッシュタグに変更します(完了)

・問題となったツイートを削除します(が、記録としてこのページに画像としては残します)(完了)

・改めてハッシュタグの紹介を行うツイートを関連する注意喚起とこの記事へのリンクを伴った形で行います(完了)

・ハッシュタグをご利用いただいた皆さんにはこの記事のリンクをお送りします(関連ツイートを削除されるかどうかはご本人にお任せします)(完了)

・記事をお送りした上で問題がないという方のエピソードはイベントなどで取り上げさせていただきます(完了)

・特設ページに「被害者の方向けの情報」「トラウマ刺激のリスク」「加害者支援の義務も責任もないこと」を明記します(完了)

・特設ページに本書やハッシュタグの目的、GADHAの活動の背景などについての記述を追加します(完了)

・本件はあくまで「緊急対応」と考え、改めてGADHA+Mにて取り上げ、オープンにコメントを集めた上で対話し、改めて議論の内容を公開します(完了:こちらをご覧ください)

本件の反省的分析「被害者を利用する」こと

今回のご批判をいただき「被害者を利用する」ということについて考えました。GADHA代表であるぼく「えいなか」のフォロワーの方々は1.2万人以上いらっしゃいます。その方々のほとんどは加害者ではなく、被害者の方だと想定されます。多くの加害者は「無自覚」であり、僕のようなアカウントをフォローする人はごく少数です。

これまでモラハラ・DVのことについて様々に発信してきました。SPA!様でもかなり早い時期から取り上げていただき、多くの方に届けていただきました。ABEMA Prime様にモラハラ特集でお話をさせていただいたこともありました。これらにおいて「加害者向けのみに」話すことはできません。あまりにも対象者が少ないからです。

無自覚な加害者のほとんどは、多くの場合では被害者が傷つきを訴えた時点では自覚せず、離婚や別居など関係の危機に至ってようやく自覚する人も一部いる、という状況です。これまでのGADHAのコミュニティの数字に基づくと特に男性はこの経緯が当てはまります。GADHAでは、この状態でようやく自覚して学び変わることで、離婚した後に、離婚前よりもお子さん含めて良い関係を築き直された方もいらっしゃいます。

このような意味においては、被害者の方々が「自分は傷ついていい、悲しんでいい、怒っていい」と感じ考えられるようになることが、加害者変容のきっかけでもあると言えます。

僕は加害者変容について携わる中で、この構造についてずっと悩んできました。つまり、被害者の方が自分の被害を理解すること、加害者心理を理解していくことの中で、加害者と離れる選択ができることが、加害者変容につながるとき、自分は加害者変容のために被害者の方を利用しているのではないか、ということです。

しかし、同時に、本当に多くの方がGADHAの活動を応援してきてくださったことも事実です。加害者側が変わらなければ、結局被害者は増え続ける。だからこそ加害者変容が重要であることに共感してくださる方々です。

加害者心理を発信していく中で、パートナーにGADHAを紹介して、関係が改善されたケースはたくさんあります(※)。親子関係においてもあります。関係の終了を選ぶ勇気を持つことができたと言ってくださる方もいます。GADHAの発信が、被害者の方を常に「利用」するものではないと思っています。

(※)ただし、これはどれほど強調しても足りませんが「被害者の方は、加害者の方の変容を支援する義務も責任」は決してありません。加害者は大人であり、それは大変なことだけれども、自らの加害に自らが向き合う必要があります。被害者の方が力を貸す必要はありません。だからこそ、GADHAという当事者団体で、支え合い、愚痴をこぼしあい、励まし合うコミュニティをやっています。

被害者の方々も様々な状況の方がいて、GADHAのような活動を見るだけで傷がありありと蘇って苦しんでしまう方もいらっしゃって、実際にこれまで多様な批判をいただいてきています。

そのような方々の批判に対して、僕はこれまで本当に申し訳なく思いながらも、傷つけてしまうこと自体を認めて、それでも取り組むことを選んできました。もちろん最大限の表現の配慮を行います。しかし、どんな表現を選んでも、活動自体が傷つきを生み出してしまうからです。その批判や痛みは、加害者というアイデンティティを引き受けて活動する以上、受け止める。そう思っています。

しかし、本件は違いました。これまでGADHAのことについて好意的に捉え、少なくともネガティブな印象を持っていなかった方からの批判をいただきました。

「被害者を利用しないでほしい」という言葉の意味はなんだろう。これまでも被害者の方を読者と想定しての発信はたくさんしてきたし、ハッシュタグに書き込んでくださいというお願いもしてきました。今回は何が違ったんだろう? 恥ずかしながら、発信した瞬間には自分が何をしてしまったのか気づいていませんでした。

いまは、今回の発信には大きく4つの大きな問題があったと考えています。

1.まるで楽しいことかのように募集した

ツイートでは「記念イベントのため #99パー離婚をハッシュタグに、離婚を決意したエピソードを募集しています!」と書いています。

ここには「被害を書くこと自体が、書く人にとっての負担になることや、トラウマとなるような記憶を惹起させることへの配慮」が一切ありません。

「離婚を決意した」ときに、傷ついていないはずがない。その傷つきを思い出させることへの抵抗や躊躇い、不安といったトーンがここには一切ない。

今改めてこう読んでみて、自分に愕然とします。この内容を見て「本を売るために被害者を利用するな」と思うのは本当に自然なことです。心からお詫び申し上げます。

2.注意事項などの記述がない

上記と重なるところもありますが、ここでは「このハッシュタグを利用することへの注意」を述べていません。

書くために思い出すことでフラッシュバックが起きる可能性があることや、このハッシュタグを読むことでダメージを受ける可能性について考慮していません。

それを記述することや、キーワードミュートの方法を同時に発信するなど、この問題について販売促進する以上、被害者の方々がどのように受け取るのかを考えなければならないのに、その視点が欠けていました。

本当に申し訳ありません。

3.なぜハッシュタグを集めるのかの目的が明示されていない

これはこのハッシュタグだけの問題というより、特設ページでの情報の補完も含めての問題です。

そもそもなんでこのハッシュタグを集めるのか。離婚を決意したエピソードを集めることで何がしたいのか。それは果たしてハッシュタグを書いてくださった方々のためになるのか、それともただ本を売ることの道具として利用するだけなのか、そういったことが判断できないようになっていました。

これは改めてサイトなどに明確に記述していきたいと思いますが、僕はやはり加害者が生まれる社会構造全体を考えた時に、被害者の方々に向けて発信することを全くせずに加害者問題を解決することは、かなり難しいと思っています。

これから一層加害者変容の社会的認知が高まっていけばそれも可能になると信じて活動していますが、現時点ではまだまだモラハラ・DV「加害者」については知られていません。

GADHAは何のために活動しているのか。この本が広く読まれることで、どんな良いことが起きるのか、それはハッシュタグを通してコミュニケーションをしてくださる方々にとってどんな意味があるのかについて、それが単に「利用」するというものでないのかについて、考え続けて、そのときどきで自分(たち)の見解を明記していきます。

4.お力添えいただける方々への依頼と感謝

今回の背景には、GADHAの活動が、加害者変容のための場でありながら、目線を変えてみれば、被害者の方々に広く支えていただき、応援していただき、信頼していただいているからこそ成り立っているという紛れもない事実を、僕がいつのまにか軽んじてしまっていたことも大きな原因がありました。

ここまで書いてきた通り、GADHAの活動は被害者の方々とのコミュニケーションを経由しなければ、非常に限定的な人にしか届かず、その場合はマスメディアや外部メディアで取り上げられることはまずありません。「無自覚な」加害者に届けることも極めて困難です。

社会的な認知が高まって、例えば家庭裁判所の調停員の方々が直接紹介してくださるようなシステムになれば大きく状況は変わると思いますが、そこに至ることがそもそもできないだろうと考えています。

「被害者を利用しないでほしい」と言われた時「利用しているつもりなんてないのだけれど…」「パートナーの方には加害者変容を支援する義務も責任もないと思っているし、これまでも必ず書くようにしていたつもりだったのだけれど…」と思いました。

しかし、仮に「利用」という言葉を使わないとしても、GADHAの活動は多くの被害者の方々の共感や応援があって成り立っていることは紛れもない事実です。本当は加害者変容支援は加害者だけで完結できたらどんなにか良いでしょうか…しかし、まだ僕自身の力不足もあり、それは叶いません。

思い出すのも辛いほどの痛みや傷つきを味わい、直接加害してきたパートナーとの関係がどうなっているかは別としても、人は学び変わることができると信じ、そのような活動をしているGADHAという団体を応援してくださっている方々がいて、GADHAの活動は初めて成り立っています。

それなのに「エピソードを募集しています!」なんて、どれほど安易な表現だったでしょうか。これを、これまで応援してくださっていた人が「利用」だと感じることは自然なことであり、それに傷つくのも本当に自然なことです。

なぜこの本を出すのか、GADHAが何のために活動しているのか、どんな協力をしていただきたいのか、でもそこにはフラッシュバックなどのリスクがあることもお伝えし、ミュートにしていただくなどの予防策を取っていただいたり、そういった配慮があった上で、お力添えいただける方に感謝しながら、依頼させていただくべき事柄でした。

こんなにも安易に、こんなにも配慮のない言葉を使ってしまったことを深くお詫び申し上げます。

今後について

本件については、Amazonの予約販売のタイミングに合わせるために、緊急対応としてこの記事を書かせていただき、また、種々のアクションを取っています。しかし、本来であればGADHA+Mのように社会との接続を考えるチームと本件について考えてから発信することが必要でした。

そのため、本記事を読んでいただいた方々からご意見をいただき、GADHA+M内部でも対話を行い、本件の反省と今後について改めて最終的な指針を提示させていただきたいと思っております。

ぜひ、ご意見のある方はこちらよりコメントを頂戴できましたら幸いです。

終わりに

改めまして、本件について深く反省しております。漫画を書いてくださった龍たまこさん、コメントをくださった小魚さん、太田さん、保育士おとーちゃんこと須賀さんにも大変なご迷惑をおかけいたしました。

出版を決めてくださったKADOKAWA様、とりわけ担当編集者の方、関連する多くの方のご協力をいただいて進めることのできたこの書籍の始まりを、最もこういったことに注意し配慮すべきだった僕のせいでご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。

そして、改めて、GADHAの活動を応援してくださっている方々、「人は学び変わることができることが信じられる社会」というビジョンに共感してくださっている方々に、直接お会いした際やDMなどで応援のメッセージをいただいた方々に、心から感謝申し上げます。

謝罪再掲

今回問題となったツイートは、未だ深い傷つきを抱えている多くの被害者の方々への配慮に欠けたものであり、モラハラ・DV加害当事者団体としてこの問題に取り組む上で果たすべき責任を果たしておりませんでした。本件で傷ついたたくさんの方々に心よりお詫び申し上げます。

本件に異議を表明してくださった方々には大変な葛藤があったかと思います。モラハラDVの問題に取り組んでいる組織の活動そのものを否定することではなくても、ハッシュタグを批判することが、他の人からそのように受け取られるリスクを感じていらっしゃったはずです。そのような苦しみを、分断のリスクを、加害当事者団体の代表が生じさせてしまったことの問題は重篤であり、深くお詫び申し上げます。

また、今回の批判をいただいたことで「加害者変容支援の活動」の構造的な難しさも改めて認識いたしました。そのことについても併せてこの記事で述べ、GADHAの今後の活動のスタンスを提示し、更なる議論や対話へと展開し、よりよい活動を検討し、学び続けることを約束いたします。

アクション再掲

・ハッシュタグの目的を「99%離婚 モラハラ夫は変わるのか」についての幅広いコメントや感想のためのハッシュタグに変更します

・問題となったツイートを削除します

・改めてハッシュタグの紹介を行うツイートを関連する注意喚起とこの記事へのリンクを伴った形で行います

・ハッシュタグをご利用いただいた皆さんにはこの記事のリンクをお送りします(関連ツイートを削除されるかどうかはご本人にお任せします)

・記事をお送りした上で問題がないという方のエピソードはイベントなどで取り上げさせていただきます

・特設ページに「被害者の方向けの情報」「トラウマ刺激のリスク」「加害者支援の義務も責任もないこと」を明記します

・特設ページに本書やハッシュタグの目的、GADHAの活動の背景などについての記述を追加します

・本件はあくまで「緊急対応」と考え、改めてGADHA+Mにて取り上げ、オープンにコメントを集めた上で対話し、改めて議論の内容を公開します